2013年09月19日

「MOMOがゆく」第4章 D地 小さかったら、たくさん回せ

いきますよー!「MOMOがゆく」第4章です。

今回からは、小学生にも読み易いように、彼らには難しいと思われる漢字や言葉には、解説を入れるようにしてみました。もっと易しい表現で書くことも、できるかとも思いますが、みんなには、読むことや、新しい言葉を知る楽しみを知ってほしい。(なんて教育的な配慮なのかしら!)
まあ、かと言って、小学3年生が、「私、ちょっと躊躇したけど、清水の舞台から飛び降りるつもりで、決心したのよ、客観的に考えてみて」なーんて、言わないとは思いますが。(詳しくは本文を・笑)
けれども、依然として小学生には、ぜんぶ読むのは難しいでしょうから、ルビや細かい解説は、パパとママ、よろしくお願いします。Yos

第4章 D地 小さかったら、たくさん回せ(小学校6年男子)

D地1.jpg

 パチリ、と、D地は目が覚めた。8月4日、全国小中学生MTB大会の朝だ。
 クンクンと鼻をうごかすと、パンを焼くいい匂いがする。D地は勢いよく布団を跳ね上げて、キッチンへと走る。朝食の匂いがしているということは、Yosはきっと、キッチンにいるはずだ。
 キッチンに行くと、Yosは窓に面した流しの前で、サラダに入れるトマトを切っていた。「やっぱりいた」料理の好きなYosが、この時間にいる場所は、キッチンに違いなかった。横から覗き込んで見ると、切られたトマトの幅は、どれも、きっちり同じだ。それを丁寧に斜めに揃えて、レタスの上に重ねてゆく。Yosさんは、料理の見た目にも、いつも気を配る。「このほうが、美味(うま)そうだろ」と、笑って言う。

「おはようございます、Yosさん。ペダルを、ビンディングに換えてください!」
D地の、この一風かわった朝の挨拶を聞いたYosは、ちょっと顔を上げると、前を向いたまま、黙って包丁を置いた。手を洗い、タオルで拭く。そして、ようやくD地のほうを見た。「あ、」D地は、このYosの顔をよく知っていた。「これは、Yosさんの、機嫌(きげん)がいいときの顔だ」

「ガレージに来い、D地。今すぐ、換えてやる」 そう言いながら、YosはD地の頭を、ガシガシと荒っぽくなでた。
 昨日の試走のとき、D地は途方(とほう)に暮れた。前日に降った豪雨の影響で、粘土質のシングルトラックの路面は、ヌルヌルにぬかるんでいた。ただでさえ滑りやすい上に、くねくねと蛇行(だこう)するバンクやドロップを、ブロックに泥が詰まって、グリップを失ったタイヤで走るのは至難の業(しなんのわざ=とてもむずかしいこと)で、D地は何度も足を着き、そして落車した。急にバランスを崩すと、ペダルからシューズを外すのが、間に合わないのだ。
 先週のMTBサマーキャンプでは、ビンディングペダルが禁止だったから、1週間のあいだ、D地は久しぶりにフラットペダルで走った。サマーキャンプでも雨の日があり、ぬかるんでスリッピーなコースを走ったが、フラットペダルなら、すぐに足を着くことができたので、ほとんど落車することはなかった。だから昨日、試走を終えて、ターフを張ったピットに戻ったとき、Yosに、フラットペダルに換えてほしいと、頼んだのだった。

 D地の頼みを聞いたYosは、genの顔を見てたずねた。
「genちゃん、D地はこう言ってるけど、どうする」
「本人がそう言ってるんなら、恐怖感でガチガチになって走るよりは、そのほうがエエんちゃうの」
「わかった。総監督が許可するのなら、そうしよう」
そして、ペダルレンチを手に取り、交換作業を進めながら、Yosは独り言のように言った。
「D地、確かに、あの泥のシングルトラックは怖い。昨日、試走して、俺でさえ、あそこはフラットペダルの方が、走りやすいだろうと思ったよ。でもな、このコースは1周3.5kmで、それを2周。そして、シングルトラックは、そのごく一部。あそこはだけは、フラットの方が安心かもしれない。でも、スタート、オーバルコース、そしてあの長い上りも、フラットで走るんだぞ。それでいいのか」
「・・・・」
 D地はそのとき、Yosの問いに答えることができなかった。確かに、Yosの言うとおりなのは分かっている。でもやはり、あそこは怖い。もちろん落車そのものも怖いが、サマーキャンプの成果で、自分のライディングが上達したのを感じていたD地は、落車によってライバルに先に行かれることのほうが、それよりも、もっと怖かった。
 ママに、上達の成果を見せたい。そのためも、いい順位でゴールしたい。もしもあそこでコケたら、押して走ることを余儀なくされ、おそらくシングルトラックを出るまでは、バイクに跨(また)がれないだろう。そのとき、バイクを押す自分の横を、ライバルたちが走り抜けてゆくシーンを想像すると、D地はどうしても、躊躇(ちゅうちょ=決心がつかず、ぐずぐずすること。ためらうこと:広辞苑)してしまうのだった。

「まあいい。そのかわり、ぜったいに、後で、『やっぱりビンディングにしとけばよかった』 なんて言うなよ。そんなカッコ悪い言い訳は、俺は大嫌いだからな」
 いつもは声が大きく、多弁なYosが、相変わらず独り言のように小声で言いながら、ペダルを交換しているときの顔が、少しさみしそうだったのを、あるいは少し怒っているようだったのを、D地はおぼえていた。そして、答えることができない自分が、気がつけば、唇(くちびる)を噛みしめていたことも。
だから今朝、Yosがあの、『機嫌がいいときの顔』で、頭をガシガシやってくれたときは、とても嬉しかった。

 そして今、D地は、最初の激坂、逆バンクのドロップと難所を越えて、長い上りに差しかかっていた。
「やっぱり、ビンディングだ!フラットだと、こんなに軽くは上れない!」

 MOMOの小学6年には、U太とShokaという、男女のエースがいる。D地は、その二人より遅い。これは客観的(きゃっかんてき)な事実だ。ダンスチームに参加し、その練習のために、自転車に乗る時間は、U太とShokaに比べると、どうしても少ない。週末にダンスのイベントが入ることもあり、出場するレースの数も、二人より少なくなる。体型的にも小柄で、小学校6年生で、すでに160p近い身長がある二人を、うらやましく思ってしまうこともある。
 体重の軽いD地は、ライバルたちと体をぶつけあうこともあるスタートでは、弾き飛ばされて落車し、悔し涙を流すこともある。きょうも、大柄な選手たちに行く手を阻(はば)まれて、スタートでは思うように前に行けなかった。
 けれども今、この長い坂を上りながら、D地は、自分よりも体の大きなライバルたちを、ひとり、また一人と、追い越してゆく。大柄なライバルたちが苦しそうに、あえぎながら坂を上る横をパスしながら、D地は思った。
「そうだ!体重の軽い僕は、上りでは有利なんだ!」
 きょうの僕の目標は、『全参加選手の中で、半分より上でゴールすること』 U太とShokaちゃんは、確かに速い。でも、僕には僕の、走り方がある。
 「体が小さかったら、その分、たくさん回すんだ! そして、これからいっぱい練習して、練習して、いつかきっと、上り坂で二人(U太とShoka)を、追い抜いてやる!」

 これから、あの泥のシングルトラックに向かって、ビンディングペダルで挑む。
「Yosさん、僕はぜったい、言い訳はしないよ!コケたって、泥だらけになったって、あそこを越えてみせる!」
 歯をくいしばって、D地がゆく。勇気を持って、向かってゆく。
 ママが、清水の舞台から飛び降りる(清水のぶたいからとびおりる=非常な決意をして物事をするときの気持ち:広辞苑)思いで買ってくれた、カーボンフレームに組まれたXTのクランクを、ライバルよりも、たくさん、たくさん、回しながら。


posted by Yos at 20:56 | 東京 ☀ | Comment(15) | MOMOがゆく | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
決してハンデじゃないよ、小さくても速い選手はたくさんいる
言い訳をする選手もいる
どっちになるのかな?
Posted by gen at 2013年09月19日 21:34
僕は、これからたくさん練習してU太やshokaより速くなりたい。
Posted by D地 at 2013年09月19日 21:42
去年のツール・ド・フランス(世界最高峰の自転車ロードレース)では、身長2m近いのも、うじゃうじゃいる参加選手180人の中で、158cmの、一番小さな選手が、山岳ステージで優勝したんだぞ!
Posted by Yos at 2013年09月19日 23:32
総監督genちゃんの言うとおりです。「ハンデ」という言葉は、ここでは、まったく当てはまらない。それに、この言葉は、後ろ向きで良くない。逆に、自転車競技においては、体重が軽いことは、たいていの場合、有利だ。同じパワーなら、軽いほうが勝つ。genのコメントのあと、改めて思いなおして、本文を修正しました。再読してください。
D地、頑張れ、いつも応援しているぞ!Yosはいつか、君が二人に勝つシーンを、「MOMOがゆく」に書くのを楽しみにしているよ。
でも、U太とShokaに勝つのは、並たいていのことじゃないぞ。全国1位と5位の二人が、これから、ますます速くなる。だから、その二人に勝つためなら、U太が坂を10本上るのなら、D地は20本上れ。Shokaがパノラマのクロカンコースを4本行くのなら、D地は5本行け。仲良しチームのKの、Hちゃんを見ろ。あの小さな体で、自分より年長の女の子はもちろん、男子にだって、負けないじゃないか。僕はいつもレースで彼女を見るたびに思う、そして勇気をもらう、「できる、できない」じゃない。「やるか、やらないか」なんだと。これは何も、自転車やスポーツに限ったことではない。勉強でも何でも、同じだよ。ママのお手伝いだって同じだ!
D地よ、強く、カッコよくなれ。(もちろんD地だけじゃないよ!みんなね!)Yosの願いです。
Posted by Yos at 2013年09月21日 10:17
ブログ拝見しています。なんと娘が登場するとは!びっくりでした。過大評価ですよ!小さいのは事実として(本人が聞いたら怒るな)実は早さの秘密はレースになったときにスイッチがあるんですよ、たまに電池替えるんですよ!動かなくなっちゃうので♪なんて冗談はやめていつも5年の兄と練習しているので最初は泣きながらですが付いてきてレースで負けて悔し涙を流してから早くなりました。練習内容は多分同学年の女の子と練習内容も量も違います。(大きく出たなぁ)そして自転車が大好き!小さな子が勝てるから面白い、レース中にちっちゃいと何度言われたことかそこで頑張るのが瞳かもしれません。お互いに良い刺激になりますので一緒に練習しましょう。よろしくお願いいたします。わが家も自転車を初めて丁度3年です、分からないことだらけですがとりあえず楽しみましょう。
Posted by Hパパ at 2013年09月23日 22:51
Hぃちゃんはやはり電動だったのか〜

Shoka KK JJ の父です。
いつも注目してます。レースの時、あの闘争心むき出しの顔はスゴイですね! KK JJには雲の上の人になっています。普段どんな練習をしているのかとても気になります。お兄ちゃんもレベル高いですしね!お互いの練習に参加してみたいですね。
あと、瞳と書かれた自転車のステッカー!めちゃカッコいいです!!
Posted by gen at 2013年09月24日 19:04
すいません、KKは(かんかん)寛菜、JJは(じゅじゅ)樹理でした。
Posted by gen at 2013年09月24日 19:12
そうです、HもAも電動ですよ!コントローラーもあります♪
JJ KK Sちゃん Hの親父ですよ〜覚えてますか〜?
皆さんの練習も覗きに行きたいなぁ、同じ年のお友達が少ないので仲良くお付き合いさせて下さい。わが家も法政のメンバーですので来月でも日程が合えば一緒に練習しましょう!
ふもとっぱらのキャンプ行きたかったな〜、私には鬼門なのでリベンジしたかった。吉見のシクロは参加しますのでお逢いするのを楽しみにしています。練習サボリ過ぎで二人ともだらけていますので、ダメダメかもしれませんが、Sちゃんの速さをシクロで瞳に盗ませたいですね、カメラで隠し録りさせていただきます。勿論、取り扱いには注意します!
瞳のステッカーはカッティングシートを手切りしたものです。車の後ろのステッカーも一緒です!安上がり、安上がり!
Posted by Hパパ at 2013年09月24日 19:45
Team K の前にlegend なんとかって書いてましたね〜
あれをみてうちもキャチフレーズみたいなの考え中です。
Posted by gen at 2013年09月24日 20:27
で、電動だったのか?! あのきょうだいは! 私はてっきり、あの速さは、原子力ぐらい積んでるかと思っていました。アトムみたいに。 ちなみに、KKのエネルギー源はコンビニで、JJは、すきやの、「お子様チーズ牛丼すきすきセット(おもちゃ付き)」ではなかったか。

失礼!申し遅れました、Yosです。台風で中止になったパノラマで、お帰りのときにお声掛けいただき、「スポーツに出る仲間がいるので、決定待ちで…」とお答えしたのが、私です。あの直後に「全レース中止」が決定したので、「もう少し早かったら、Hちゃんファミリーと一緒に、ご飯でも食べながら、レース談義ができたのにね」と、genたちと残念がっていたのです。だから、近々ご一緒できそうで、とても楽しみです。
Hちゃんには、東京五輪決定の翌日のa.b.c.で、「Hちゃん、頑張ってオリンピックに出てね」と言った、変なオジサンと言ってもらうと、分ってくれるかも(笑)。そのときの彼女は「私はそのとき(リオ五輪かな?)、まだ14歳だから、出られないの」と答えてくれました。 それを聞いて「ああ、この子はやっぱり、出る気なんだ」と、素敵で、頼もしい気持ちにしてもらいました。
そして「そんなの、Hちゃんがすごく速かったら、あそこにいる会長さんが、14歳でもオッケーに、かえちゃうよ!」と言ったオジサンですよ。

過大評価でも、大げさでもなく、彼女を見ていると、チカラをもらいます。もちろん、その影には、質も量も圧倒的な練習(と、秘密の電池!)があるのだと思いますが、「できない」ことに言い訳をするのが恥ずかしくなります。大切なのは「やるか、やらないか」なのだと、改めて教えてもらえるのです。だから、KK、JJのヒーロー(ヒロインか)の、私も大ファンです。
レースのときの、闘争心に溢れた真剣な表情と、MOMOのテントに遊びにきてくれたときや、表彰台の上で見せる笑顔のギャップが、また素敵。で、その表彰台の真ん中のHちゃんの笑顔が、いつもだいたい、2位と3位の二人より、ちょっと下にあるというのがまた痛快で、「あの小さな体で…」という表現での登場になるのです。 ちっちゃいなんて言って、ごめんね、Hちゃん!っていうか、瞳ちゃん、で大丈夫よね、もう(笑)。
最後に、私が趣味で書いている、ヘタクソ小説もどき『MOMOがゆく』本編にも、お兄ちゃんと一緒に、出てねーと、演依頼(笑)をお願いしておきます。
Posted by Yos at 2013年09月24日 21:36
私達の予定を簡単にお知らせします。
10月6日はシクロ 私は自治会の運動会
13日は東京都自転車教室のブルベ まだ募集中ですょ
14日は法政の予定です。
いつも決めて全員集合ではなく、連絡して来れる人のみ強制無し、結構バラバラです!ですから、絶対ではありませんがタイミングが合えば如何でしょうか?
FBされてましたら、リクエストしてください。写真で分かると思います。
Posted by Hパパ at 2013年09月26日 08:56
14日法政、偶然ですね〜

え〜FBって何ですか?誰かおしえて〜
Posted by gen at 2013年09月26日 09:09
FB とはフェースブックでーす!
私達はチーム内の連絡はFacebookが多いです。
Posted by Hパパ at 2013年09月26日 09:53
ああ〜聞いたことはあります。
私の携帯は古いがお気に入りでして・・・
投稿はいつも自宅PCからのみです。
自宅PCからでも出来るんでしょうがね〜〜〜
Posted by gen at 2013年09月26日 20:11
コメント遅れました〜
今までのコメントの流れとは違うコメントで失礼します。m(__)m
大会の朝にあんなドラマがあったとは!知りませんでした〜
D地の心情が良く書かれていて、D地も何回も読み直していたみたいです。
結局ビンディングにして、正解だったみたいで良かったです。
目標には今一届かなかったけれど、前年のビリ2から比べれれば
本人なりに頑張ったと思います。
しかし、自転車を買う時のママの心情も良く分かりましたね〜
向こう10年分以上の誕生日プレゼントを自転車で使い果たしました。
後は自転車の性能を最大限引き出せるように、D地が頑張るしかないです。
自転車は楽しい、と言う気持ちを持ったまま、
楽しく続けていって欲しいと思っています。
もちろん、いつかは表彰台!なんて夢を持ちながら。。。
これからも、沢山、皆様のお世話になると思いますので、
親子共々宜しくお願いいたします。m(__)m
Posted by Dmama at 2013年09月26日 23:14
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