2013年10月31日

「MOMOがゆく」 第1部 最終章 ゴール!

「MOMOがゆく」第1部 最終章 ゴール!

 最終周回、レースは終盤を迎え、U太は今、7番手を走っていた。パパと目標に決めた5位までには、あと2人を抜かなければならないが、もう抜くチャンスは少ない。しかしU太には、まだここから使える「武器」があった。レースの直前に、シンスケが言った「U太、お前なら、抜くところは上りだけじゃないぞ」と。そのとき「うん」とうなずいたU太には、その意味が分かっていた。
 本格的にMTBレースを始めてまだ1年少しのU太。上りでは、経験や練習を積んだライバルたちに、未だ一歩譲るのは否めない。脚を上手く回すのが有利な上りは、経験値から得られるテクニックが占める(しめる)部分が多く、そこでは「上手いやつ」が勝つ。しかし、「ビビったら負け」の下りでは、「勇気のあるやつ」が勝つのだ。今、U太が最後に使える武器こそが、その「勇気」だった。
 スピードの出る、長く危険なガレ場の下りで、前を走るライバルたちが次々とブレーキをかけて後ろに消えてゆく。その中で、U太がブレーキレバーに軽くかけた指を引く頻度は、(ライバルたちに比べて)極端に少ない。
 ポケバイのレースで、ときに100kmを超えるハイスピードを経験しているU太は、自転車のスピードしか知らないライバルたち(まあ、ふつう小学生は、そうですよね)に比べて、高速域での恐怖感が極端に少ない。そしてこのスピード感覚こそが、U太のいわば、最大の武器なのだ。(まあ、そのスピードの代償が、ときに「骨折」につながることもあるのだけど、スピードに魅せられたレーサーは、骨折ぐらいじゃ、懲りないのだよね、U太。同じくオートバイレースをやっていたYosも、U太同様、スピードジャンキーだから、よーく分かるよ。ついでに言っておくと、これは、同じくオートバイレーサーの、Upapaからの遺伝でもあるよね)
 その下りで今、U太は今、2人を抜いた。「よし、これで5位。このまま最後まで、行ってやる!」

 Anticipation(アンティシペイション=予感・予期)。
 最終周回も残すところあとわずかなところで、男子選手2人が横から無理な追い抜きをかけたとき、Shokaは瞬時に次の展開を予期した。「前に一人、先行がいる。追い抜いていった2人がその先行と絡んだら、きっとトラブルが起きる」と。
 今、もしもShokaの脳がスキャンされたとしたら、大脳皮質の前頭・側頭運動野の血流が著しく、活発な活動が認められたはずだ。大脳皮質のこの部分は、人間の運動機能を司(つかさど)り、特に視野によって得られた情報を処理し、それに対処すべき身体の動きの命令を出すと、最新の脳科学では言われている。
 そしてその活動が極限まで高められた状態は、スポーツ科学においてときに「Zone(ゾーン)」と表現される。 アスリートがこの領域に入ったとき、不必要な雑音はカットされ、そして自分を取り巻く景色の動きが、スローモーションのようにゆっくりと見えるという。むかし、「打撃の神様」と言われた読売巨人軍の川上哲治(なんとご存命でいらして、Yosがこの章を書いているときに、ニュースで訃報が流れました。ご冥福をお祈りいたします)が、「ボールが止まって見えた」と言う有名な逸話などは、まさにこのZoneをあらわすに違いない。
 「なんだか静かで、ゆっくりだな」と感じたのは、決して、「くまベルの不在」のせいだけではなかったのだ。(第3章、「くまベルはお留守番」参照)レベルの差こそあれ、今そのZone領域にいたShokaは、ゆっくりと流れる景色から次の展開を予感し、ほとんど無意識に、ラインを少しだけ右に変える。
 そしてそのとき、減速するのではなく、Shokaは確信を持って加速した。「このラインで加速して、間違いない」。その途端、「ザザーッ!」という轟音とともに、左側で砂埃(すなぼこり)が巻き起こる。さっきの2人が落車し、横倒しになったバイクを絡み合わせながら砂利道を滑ってゆく。Shokaは、その右側を、チェッカーフラッグに向けて、滑らかに、そして美しく加速していった。

 JJは自分が今、何位を走っているか分からない。Hiちゃんが前にいるのは確実。でも、その次は、誰なんだろう?
 KKが最期の追い上げをみせる。追いつけ、追いつけ!もう少し!
 ゴール前の直線、ダンシングで加速するKNの闘志あふれる表情に、パパとママたちは驚く。「KNのあんな顔は、はじめて見た!」
 D地が、すべての力を出し尽くして、ゴールを目指す。もう一人抜いて、もうひとつ、上にいくんだ!
 Mackeyが、最後の力を振り絞る。僕もみんなと一緒に、ゴールまでいくんだ!

U太ゴール.jpg
マシュン先生、ありがとう!両手が折れてたけど、先生のおかげで頑張れました!

 パパ、ママ、ありがとう。僕は走り切った!U太が今、拳を突き上げながら、5位のゴールを切った。
 Upapaはそのとき、そっとマックツールのサングラスをかけた。嬉し涙を、見せないために。(そんなの、見せちゃえばいいのにね!)
 世界で活躍する、マシュン先生が、「教え子」の健闘を讃(たた)えて、嬉しそうにチェッカーフラッグを振っているのが、U太には見えていたのか、いなかったのか。おそらく、見えていなかっただろう。
 きっとU太には、自分の前しか、ゴールラインしか、見えていなかった。「U太、その手で、よく頑張ったなあ」と、マシュン先生が言うのを、U太はゴールしたあとに聞いた。「マシュン先生が、毎日テーピングを替えてくれたおかげだよ」

 U太に遅れること18秒、Shokaがゴール前の直線に来た。Yosが走りながらガッツポーズをしているのが、チラッと見える。あれ、Yosはもしかして泣いてる?大げさだなあ。朝、「表彰台は確実だよ」って言っておいたのに。でも、1位になれるとは、自分でも、ちょっと思ってなかったけどね。

 JJのダンシングは、スローモーションのようだった。バイクの加速にたいして、JJの動きがひどくゆっくりに見える。それほどウエイトの乗った、美しいダンシングで、JJが、Hiちゃんに続く2位のゴールを切った。

JJの1.jpg
JJ、狙いどおりの表彰台、やったね!


 KKは悔し涙を浮かべてゴールした。残念ながら、メダルにはとどかなかった。でも、それでも、あの渋滞の遅れから、いっぱい追い抜いて6位は、凄いことだよ、KK!

KKゴール前.jpg
KK、追い上げ、すごくカッコよかったよ!今度こそ、メダルだ!

D地ゴール.jpg
D地、よく頑張った!そしてママのためにも、もっと強く、強くなれ!

 D地は24人中、16位。目標の「半分より上」には少しとどかなかったが、以前はブービーメーカーだった君が、こんなにも強くなった。次は半分どころか、もっと上、表彰台を狙えよ、D地!

Mackeyゴール.jpg
Mackeyは20位でゴール。ぶっつけ本番で、よくここまで頑張った!天性のセンスのなせるわざ。

KNゴール.jpg
闘争心あふれるラストスパートのあと、KNはやはり、笑顔でゴールした。

 KNは11位でゴール。「あれ、そういえばKNちゃん、眼鏡(KNは普段、眼鏡をかけている)なしで、よく走れたね」というYosに、「うん、KNは、眼鏡かけていれば、1位だから」。もちろんそうだよね! KNちゃん!)


Shokaゴール.jpg
おめでとう、Shoka!最高だ!ついでに、後ろで飛んでるYosも最高だ!

 早起きが辛かったり、ダブルエントリーのレースで、10分しかないインターバルに文句を言ったりもしたけど、でも、きょう、こうして1位になれたのは、やっぱりパパのおかげ。パパ、ありがとう!私は、やったよ!
 Shokaが今、両手を高く掲(かか)げて、ゴールラインを越えた。Team MOMOが、全日本チャンピオンだ!

2人のエース.jpg
Team MOMOの、2人のエース
君たちが2020年の東京オリンピックで、お台場の沖の人工島のコースを走るのを見ることができたなら、Yosは(今のところ・笑)何も思いのこすことはない。

「MOMOがゆく」第1部 完


posted by Yos at 02:44 | 東京 ☀ | Comment(2) | MOMOがゆく | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
お疲れ様でした〜
今回も楽しく読ませていただきました〜
20章くらい行くと思ってたんですが、第一部だったんですね(^^)

では、第二部突入〜(^^)!
Posted by Upapa at 2013年10月31日 20:39
思い出しながらゆっくり読ませてもらいました☆
2020年!いざお台場へ☆
Posted by マコト at 2013年11月09日 14:27
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