2014年02月22日

JJの自転車

Upapa、「MOMOがゆく」書籍化するのか?
だったらもっと、読者層を増やさないと!
ってことで、なんと今回の「MOMOがゆく」は、「メルヘン」です。

MOMOがゆく 「JJの自転車」

 「あぶない!JJちゃんの上に落ちちゃいけない!」
僕はそのとき、できる限りの力で自分の体をひねった。鉄でできた重たい僕が、彼女の上にまともに落ちたら、JJちゃんはきっと大きなケガをする。
 僕は、自分のからだを、自分自身では、ほとんど動かすことができない。でも誰かが僕を動かしてくれているときだけは、ほんの少しだけ、自分の意思で、自分のからだを動かすことができる。
 なんとかJJちゃんの上に落ちないように、僕はパンプトラックの外側に向かって飛んだ。そのあとハンドルに強い衝撃を感じて、僕の右手ともいうべき、フロントブレーキのレバーが、ばきりと音を立てて折れるのが分かった。僕は痛みは感じない。でも、自分のからだのどこが、どうなったかは分かる。
 JJちゃんの大きな泣き声が聞こえる。彼女は、だいじょうぶだろうか?ひどいケガは、しなかっただろうか?

 そう、僕は、自転車だ。
 生まれたのは中国か台湾らしいけど、ずいぶん昔のことなので、それは忘れた。
 覚えているのは、アメリカのシアトルを走っていた頃のことあたりから。
 そのころ僕は、シアトルのシンボルともいうべき標高4,392mの休火山、マウント・レーニアのふもとを、K原さんちの元気な男の子と一緒に、走りはじめたのだった。マリナーズの本拠地のセーフコ・フィールドのちかくを走っていたときの、スタジアムの中から聞こえてきた歓声を、今も懐かしく思い出す。「あれはきっと、イチローだよ」と、彼(K原さんジュニア)は僕に、教えてくれた。
 シアトルは雨の多いところで、僕の仲間の自転車たちは、どんどん錆びて、走れなくなっていったけど、僕はとてもたいせつにしてもらったから、ぜんぜん錆びたりしなかった。
そしてK原さんの家族が日本に帰るとき、僕も一緒に日本に来たのだ。
 日本に来てから、その子(K原さんジュニア)は大きくなって、24インチホイールの僕は、彼には小さくなった。そうしてあまり乗ってもらえなくなった僕はしばらく、K原さんちの車庫で眠っていた。
 僕は、ほんとうは思いっきり、走りたかった。日本の野山は、どんなだろう?レーニアじゃなくて、どんな山があるんだろう?

 そして、僕は、また走れるようになった。
 K原さんが、自転車仲間のgenさんの娘さんのShokaちゃんに、僕をプレゼントしたからだ。
ガレージで眠っていた僕は、bike room SINという自転車屋さんに持ち込まれた。そして丁寧にメンテナンスをしてもらって、また走ることができるようになった。
 シフトやブレーキのケーブルをぜんぶ新しくしてもらい、からだ中にオイルを差してもらって、まるで生まれ変わったような気分だった。
 そしてなんといっても、わおっ!僕は新しい素敵な「足」をもらったのだ。
僕の新しい足は、SINの店主であるシンスケさん得意の「手組み」で、シマノの105のハブに、SUNのリム、DTスイスのホワイトスポークで組まれた、すごくカッコいいホイールだった。
 僕は鉄でできた古い自転車だけど、自慢はトリガーシフトのリア9速のギアだ。これは今でも完璧に動く。このギアと新しいホイールとの相性は最高で、僕はgenさんの長女、Shokaちゃんのライディングで、自慢の新しい足をぶんぶん回して、最初はサイクリングを、そして、わおっ!ついにはレースを走り始めた。レースを走れるなんて、本当に「自転車冥利に尽きる」というものだ。
 僕はShokaちゃんと、いろんなレースに出た。はじめのころは、舗装されたサーキットや、スタジアムの中を走るキッズレースだったけれど、Shokaちゃんが上達するに従って、僕たちの主戦場は、マウンテンバイクのレースになった。これは望むところだった。だって僕は、MTBなのだから。

 Shokaちゃんの背はぐんぐん伸びたから、僕はまた、彼女には小さくなった。ちょっとのあいだ、同じチームMOMOのU太君が僕に乗った。
 そして今、僕のライダーは、Shokaちゃんの妹、JJちゃんだ(KKちゃんは双子のきょうだい)。
 今、JJちゃん(と僕)の、大きな目標は、来月に開催される、「全国小中学校MTB大会」だ。実はJJちゃんは、ひそかにこの全国大会で表彰台に乗って、メダルをもらうことを狙っている。JJちゃんは僕にこっそり、「いっしょに、ひょうしょうだいをねらおうね」と話してくれた。
 僕たちはきょう、その大会の練習のために、3連休を利用して、白馬のコースを走っていた。そしてさっき、パンプトラックで、僕のフロントタイヤがギャップの底に突き刺さって、前向きに一回転してしまったのだ。JJちゃんは今、ギャップの底で小さく丸まって、泣きじゃくっている。僕は心配で心配でたまらない。genさんが、あわてて走ってきて、JJちゃんを抱き起こした。右足のひざの下あたりが切れて、血が流れていた。
「ああ、僕たちは、もう走れないのだろうか。全国大会も、だめなのだろうか」と、そのとき僕は思った。

 翌日、いつものように、ShokaちゃんのオルベアとKKちゃんのGTと並んで、僕を乗せたエルグランドは、関越自動車道を東京方面に向かって走っていた。
「やっぱり、JJちゃんのケガで、今回の白馬合宿(本来はあと2日を残していた)は、これでおしまいになって、僕たちは帰ってしまうのかな」
「でも、おやっ?」エルグランドは諏訪湖インターを降りて、市街地に向けて走ってゆく。「どこに行くのだろうね?」と僕たち(オルベアとGTの自転車たち)が「自転車語(まったく翻訳不可能)」で話していると、エルグランドは一軒の自転車屋さんの前で停まった。そして僕だけが、キャリアから下ろされて、その自転車屋さんの中に持ち込まれた。
 事前に電話で連絡していたらしく、自転車屋さんのオジさんが、僕の折れたフロントブレーキ周りを点検しはじめた。このオジさん、いつも僕をメンテナンスしてくれるシンスケさんとは違って、ちょっと、いや、ずいぶん無愛想だった。
 しばらく僕を点検したオジさんは、「だいじょうぶ。すぐ直せますよ。パーツあります」と言った。
 そして僕はとても丁寧に修理をしてもらった。パーツの交換だけでなく、左右の位置のバランスは完璧にセットされ、自慢の9速トリガーシフトも万全に調整された。グリップでカバーされて見えなくなるバーエンドのバリまでも、きちんと取ってくれた。genさんは、そのオジさんのことを、「ホンモノの職人さんや」とほめた。
 お店の在庫パーツの関係で、シルバーだったブレーキレバーは、フロントだけが黒になったけど、もちろん何の問題もない。いや、海賊の黒いアイパッチ(自転車が、知っているのか、そんなこと?)みたいで、むしろカッコいいぐらいだ。
 「これでまた、JJちゃんと一緒に走れる」僕は夢を見ているように嬉しかった。自転車が寝るのか、夢を見るのかは分からないけど。

 ひざのケガは痛そう(普通の小学校3年生は、こんなケガは、まあしない)だったけど、幸い、JJちゃんに骨折などの大きなケガはなく、また、アクシデントの精神的なショックも、JJちゃんは闘志を燃やしてはねのけて、翌週の「シマノ・バイカーズフェスティバル」では、なんと僕たちは3位になって銅メダルをもらった。
そしてそれから一週間後、ついに、最大の目標である、「全国小中学生MTB大会」のスタートラインに、僕とJJちゃんは並んだ。
 カチン、と、右足の「パッチン」が入る。
「さあ、いくよ。あの激坂の上までは、ぜんりょくでいくから。たのむよ、しっかり走ってね」JJちゃんが、やさしく、けれども闘志がこもった声で、僕にささやきかける。
「もちろん!いくとも。JJちゃん、どこまでも、走っていこう」
僕は彼女には聞こえない「自転車語」で答えた。

― 「全国小中学生MTB大会」の、JJとこのバイクのたたかいは、どうぞMOMOがゆく第5章、「JJ、本気の女の子」と、「ゴール」をお読みください ―

 それから僕とJJちゃんは、クロカンやエンデューロ、デュアスロンなど、いろんなレースを一緒に走った。ひょうしょうだいにも、たくさん乗った。
 そして年が新しくなって、きょうも、もちろん僕たちはレースだ。東京シクロクロス。
genさんが、いつものように、僕をエルグランドのキャリアから下ろす。
「わおっ!コースが雪で真っ白じゃないか!これでレースをやるのか。どうする?JJちゃん?」
「もちろん、いくわよ」
JJちゃんは最近ときどき、僕の「自転車語」が分かるようになったようだ。
 そのとき僕は、この前、JJちゃんが僕に、「ほら、君だよ」と見せてくれた絵のことを思い出していた。学校の美術で、「好きなものを書く」というテーマに、JJちゃんは僕を書いてくれたのだ。それはとっても素敵な僕の絵で、自慢の白いスポークのホイールは、前後の組み方の違いまで、きちんと書き込まれていた。僕はとても嬉しくて、そして誇らしかった。

JJのバイク.jpg

「もちろん、いこう。JJちゃん。雪でも雨でも、へっちゃらさ。どこまでもいっしょに、走っていこう!」

※MOMOのみんな、自転車は、君たちと一緒に頑張るパートナーです。大切にしようね!


posted by Yos at 22:30 | Comment(8) | MOMOがゆく | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
自転車語かあ。いろんな方のいろんなときのお話を聞いたり、自分でも思ったことを思い起こすと…自転車語あるんだな。きっと。
メルヘン編も楽しく読ませてもらいました!
Posted by マコト at 2014年02月24日 11:46
ごめん。最近忙しく、今読んだ…。
おもしろい!!!
こんな風にモノが色々話し出すと楽しいし、もっとモノを大事にしそうだね。いや、でも粗大ゴミ置き場が怖いわ。
このシリーズ続けてね。次は熊ベル?サングラス?タープもいいね〜。
Posted by SKM48 at 2014年02月25日 06:29
いいね〜自転車語(^o^)
私も2、3回はモモ練のときにかりたけど・・・
この物語を読んだ後だったら走りが違ったかも(笑)
JJもそろそろ乗り換えかっ?!と思う所もあるけれど、
このままあの自転車で!とも思っちゃうね〜
皆、自分のパートナーと思ってくれていると信じたいですねー
Posted by Akou at 2014年02月26日 09:50
そのうち記念に書籍化しましょう!!
新たな切り口いいですね〜
ラッキーはいかがでしょう(^^)
Posted by Upapa at 2014年02月26日 19:25
あの自転車がうちに来てからShokaがレースに出るようになり、仲間達とのMTB生活が始まった。
片山梨絵さんの直筆サインも入ってます。
いろんな人から助けてもらいお陰で知識も増えました。
ずっとずっと一緒にいようね!
Posted by gen at 2014年02月26日 23:43
書棚の整理をしていたら、スペシャライズのマニュアルが見つかりました。もう必要ないかもしれませんが、ついの物なので渡しますね!
Posted by SKY50のK at 2014年03月03日 21:00
おお〜
コレクターには必要ですね!
Posted by gen at 2014年03月03日 22:55
バイクの絵の背景のラインが、アルカンシエルに見えるのはYosだけか?

ところでSKM48さん、熊ベルやサングラスの物語って、ショート・ショートで、こんな感じになるよ。

《熊ベル編》
僕は熊ベル。いつもShokaちゃんのバイクの、サドルの下で鳴っている。山では熊から、街では、熊より怖い暴走ママチャリのオバさんたちから、Shokaちゃんを守っているんだ。
「カンカラカンカラ、どけどけー、全日本チャンピオン、Shoka様のお通りだ!どけどけー」
それにしても、Yosさんめ、晴れ舞台の全国大会で、僕を外して、クーラーボックスの取っ手で留守番させるなんて。(その理由は、「MOMOがゆく第3章 くまベルはお留守番」をお読みください)Shokaちゃんなら、僕を外さなくても、ぶっちぎりで優勝したさ!
ぷー。
あ、Shokaちゃん、オナラしたな。くっさ〜。しくしく。

《サングラス編》
「オイオイオイ、あぶないよ!」
バキッ!!
「ぎゃー!」
なんでサングラスの僕を、床にそのまま転がしておくんだよ!?genさんに踏まれて、割れちゃったじゃないかよ!僕は、コンビニとかで売っている、やすもんのファッショングラスじゃないんだよ。オガさんのかけてる(彼のはイエロー)のと同じモデルの、SWANSの高級品なんだよ。それも、1週間前に、Yosさんがプレゼントしてくれたばかりなのに。
だいたいこの家、キャノンの一眼レフとかもケースにも入れずにキッチンの床に転がってるし、嫌な予感がしてたんだよ。もっと僕らを大切にしてよー。しくしく。

《タープ編》
僕はM永家に長くお仕えしたタープです。
このたび、長年のご奉仕で穴が開いて、骨も折れたところ、Yosさんちのアパートのゴミ捨て場に捨てられました。SKM48さんが「川崎は、横浜よりゴミが捨てやすいでしょ。ヨロシク」って言って。しくしく。

みんな、モノを大切にしようねー。Yos
Posted by Yos at 2014年03月04日 20:38
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。