2013年10月31日

「MOMOがゆく」 第1部 最終章 ゴール!

「MOMOがゆく」第1部 最終章 ゴール!

 最終周回、レースは終盤を迎え、U太は今、7番手を走っていた。パパと目標に決めた5位までには、あと2人を抜かなければならないが、もう抜くチャンスは少ない。しかしU太には、まだここから使える「武器」があった。レースの直前に、シンスケが言った「U太、お前なら、抜くところは上りだけじゃないぞ」と。そのとき「うん」とうなずいたU太には、その意味が分かっていた。
 本格的にMTBレースを始めてまだ1年少しのU太。上りでは、経験や練習を積んだライバルたちに、未だ一歩譲るのは否めない。脚を上手く回すのが有利な上りは、経験値から得られるテクニックが占める(しめる)部分が多く、そこでは「上手いやつ」が勝つ。しかし、「ビビったら負け」の下りでは、「勇気のあるやつ」が勝つのだ。今、U太が最後に使える武器こそが、その「勇気」だった。
 スピードの出る、長く危険なガレ場の下りで、前を走るライバルたちが次々とブレーキをかけて後ろに消えてゆく。その中で、U太がブレーキレバーに軽くかけた指を引く頻度は、(ライバルたちに比べて)極端に少ない。
 ポケバイのレースで、ときに100kmを超えるハイスピードを経験しているU太は、自転車のスピードしか知らないライバルたち(まあ、ふつう小学生は、そうですよね)に比べて、高速域での恐怖感が極端に少ない。そしてこのスピード感覚こそが、U太のいわば、最大の武器なのだ。(まあ、そのスピードの代償が、ときに「骨折」につながることもあるのだけど、スピードに魅せられたレーサーは、骨折ぐらいじゃ、懲りないのだよね、U太。同じくオートバイレースをやっていたYosも、U太同様、スピードジャンキーだから、よーく分かるよ。ついでに言っておくと、これは、同じくオートバイレーサーの、Upapaからの遺伝でもあるよね)
 その下りで今、U太は今、2人を抜いた。「よし、これで5位。このまま最後まで、行ってやる!」

 Anticipation(アンティシペイション=予感・予期)。
 最終周回も残すところあとわずかなところで、男子選手2人が横から無理な追い抜きをかけたとき、Shokaは瞬時に次の展開を予期した。「前に一人、先行がいる。追い抜いていった2人がその先行と絡んだら、きっとトラブルが起きる」と。
 今、もしもShokaの脳がスキャンされたとしたら、大脳皮質の前頭・側頭運動野の血流が著しく、活発な活動が認められたはずだ。大脳皮質のこの部分は、人間の運動機能を司(つかさど)り、特に視野によって得られた情報を処理し、それに対処すべき身体の動きの命令を出すと、最新の脳科学では言われている。
 そしてその活動が極限まで高められた状態は、スポーツ科学においてときに「Zone(ゾーン)」と表現される。 アスリートがこの領域に入ったとき、不必要な雑音はカットされ、そして自分を取り巻く景色の動きが、スローモーションのようにゆっくりと見えるという。むかし、「打撃の神様」と言われた読売巨人軍の川上哲治(なんとご存命でいらして、Yosがこの章を書いているときに、ニュースで訃報が流れました。ご冥福をお祈りいたします)が、「ボールが止まって見えた」と言う有名な逸話などは、まさにこのZoneをあらわすに違いない。
 「なんだか静かで、ゆっくりだな」と感じたのは、決して、「くまベルの不在」のせいだけではなかったのだ。(第3章、「くまベルはお留守番」参照)レベルの差こそあれ、今そのZone領域にいたShokaは、ゆっくりと流れる景色から次の展開を予感し、ほとんど無意識に、ラインを少しだけ右に変える。
 そしてそのとき、減速するのではなく、Shokaは確信を持って加速した。「このラインで加速して、間違いない」。その途端、「ザザーッ!」という轟音とともに、左側で砂埃(すなぼこり)が巻き起こる。さっきの2人が落車し、横倒しになったバイクを絡み合わせながら砂利道を滑ってゆく。Shokaは、その右側を、チェッカーフラッグに向けて、滑らかに、そして美しく加速していった。

 JJは自分が今、何位を走っているか分からない。Hiちゃんが前にいるのは確実。でも、その次は、誰なんだろう?
 KKが最期の追い上げをみせる。追いつけ、追いつけ!もう少し!
 ゴール前の直線、ダンシングで加速するKNの闘志あふれる表情に、パパとママたちは驚く。「KNのあんな顔は、はじめて見た!」
 D地が、すべての力を出し尽くして、ゴールを目指す。もう一人抜いて、もうひとつ、上にいくんだ!
 Mackeyが、最後の力を振り絞る。僕もみんなと一緒に、ゴールまでいくんだ!

U太ゴール.jpg
マシュン先生、ありがとう!両手が折れてたけど、先生のおかげで頑張れました!

 パパ、ママ、ありがとう。僕は走り切った!U太が今、拳を突き上げながら、5位のゴールを切った。
 Upapaはそのとき、そっとマックツールのサングラスをかけた。嬉し涙を、見せないために。(そんなの、見せちゃえばいいのにね!)
 世界で活躍する、マシュン先生が、「教え子」の健闘を讃(たた)えて、嬉しそうにチェッカーフラッグを振っているのが、U太には見えていたのか、いなかったのか。おそらく、見えていなかっただろう。
 きっとU太には、自分の前しか、ゴールラインしか、見えていなかった。「U太、その手で、よく頑張ったなあ」と、マシュン先生が言うのを、U太はゴールしたあとに聞いた。「マシュン先生が、毎日テーピングを替えてくれたおかげだよ」

 U太に遅れること18秒、Shokaがゴール前の直線に来た。Yosが走りながらガッツポーズをしているのが、チラッと見える。あれ、Yosはもしかして泣いてる?大げさだなあ。朝、「表彰台は確実だよ」って言っておいたのに。でも、1位になれるとは、自分でも、ちょっと思ってなかったけどね。

 JJのダンシングは、スローモーションのようだった。バイクの加速にたいして、JJの動きがひどくゆっくりに見える。それほどウエイトの乗った、美しいダンシングで、JJが、Hiちゃんに続く2位のゴールを切った。

JJの1.jpg
JJ、狙いどおりの表彰台、やったね!


 KKは悔し涙を浮かべてゴールした。残念ながら、メダルにはとどかなかった。でも、それでも、あの渋滞の遅れから、いっぱい追い抜いて6位は、凄いことだよ、KK!

KKゴール前.jpg
KK、追い上げ、すごくカッコよかったよ!今度こそ、メダルだ!

D地ゴール.jpg
D地、よく頑張った!そしてママのためにも、もっと強く、強くなれ!

 D地は24人中、16位。目標の「半分より上」には少しとどかなかったが、以前はブービーメーカーだった君が、こんなにも強くなった。次は半分どころか、もっと上、表彰台を狙えよ、D地!

Mackeyゴール.jpg
Mackeyは20位でゴール。ぶっつけ本番で、よくここまで頑張った!天性のセンスのなせるわざ。

KNゴール.jpg
闘争心あふれるラストスパートのあと、KNはやはり、笑顔でゴールした。

 KNは11位でゴール。「あれ、そういえばKNちゃん、眼鏡(KNは普段、眼鏡をかけている)なしで、よく走れたね」というYosに、「うん、KNは、眼鏡かけていれば、1位だから」。もちろんそうだよね! KNちゃん!)


Shokaゴール.jpg
おめでとう、Shoka!最高だ!ついでに、後ろで飛んでるYosも最高だ!

 早起きが辛かったり、ダブルエントリーのレースで、10分しかないインターバルに文句を言ったりもしたけど、でも、きょう、こうして1位になれたのは、やっぱりパパのおかげ。パパ、ありがとう!私は、やったよ!
 Shokaが今、両手を高く掲(かか)げて、ゴールラインを越えた。Team MOMOが、全日本チャンピオンだ!

2人のエース.jpg
Team MOMOの、2人のエース
君たちが2020年の東京オリンピックで、お台場の沖の人工島のコースを走るのを見ることができたなら、Yosは(今のところ・笑)何も思いのこすことはない。

「MOMOがゆく」第1部 完


posted by Yos at 02:44 | 東京 ☀ | Comment(2) | MOMOがゆく | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年10月25日

「MOMOがゆく」 第7章 純真のMackey 持って生まれたセンス

第7章 純真のMackey もって生まれたセンス

Mackey上り.jpg

 いつもは天真爛漫(てんしんらんまん=純真そのもので、思うとおりにふるまうこと:岩波国語辞典)に明るい、チームMOMOのムードメーカー、Mackeyが、歯をくいしばって、この難しいコースに挑んでいた。MTBサマーキャンプに参加したメンバーとは違い、昨日と今朝の試走を走ったのみ、という苦しい条件で。1周目を終えようとするとき、Mackeyは突然、足がガクリと重くなったのを感じた。

 スタートダッシュのときには後ろにいたD地は、1周目のなかばでMackeyをパスして先行し、今はもうその背中が見えないぐらい先をゆく。(D地は今回のサマーキャンプで、ぐっと速く、たくましくなっていた)
 起伏に満ち、長い上りを有する、このタフなコースは、そこそこMTBに乗れる大人でさえ、初めて走るときは難しい。スピードの出るガレ場の長い下りや、ぬかるんで滑るうえにドロップの相次ぐ泥のシングルトラックなど、「怖い」と思うパートもある。
 しかしMackeyは、昨日、試走で初めてこのコースを走ったときに、怖いどころか「楽しい!」と感じたのだった。Mackeyはいつも、自転車に乗るのを純真に楽しむ。それは大好きな仲間とのサイクリングでも、レースでも、同じだった。

 Mackeyには、抜群の身体能力がある。
 2回のMTBサマーキャンプを経験し、ライディング・テクニックが上達したMOMOのキッズたちは、今では、ぜんいんが、スタンディングやジャンプ、ウイリーといったライディングを身につけた。ちなみに現在のスタンディングのチャンプはJJで、ピタリと止まる彼女のスタンディングは2分以上、まるで静止画像のように動かない。
 しかし、まだみんながMTBに乗り始めて間もないころ、スタンディングができたのは、実はMackeyだけだった。特に練習したわけでもなく、天性のバランス感覚で、できてしまうのだ。日常的に自転車に乗るサイクリストでも、ペダルに両脚を乗せたままピタリと止まる「スタンディング・スティル」は、実はできない人のほうが多い。
 ウィリーにしてもしかりで、Mackeyだけが、ひょいと前輪を持ち上げ、なんとクルクルと数回、脚を回すことさえできた。本人にしてみれば、みようみまね、というか、きっと「やってみたら、できた」ぐらいに思っているのだろうが、自転車に乗る人間なら誰でも分る。それはふつう、やっても、できない。
そうなのだ。Mackeyには、生まれ持った、高い身体能力がある。Yosは、その点ではMOMOのメンバーの中で、Mackeyが一番なのではないかと思うことがある。

 あらゆるスポーツにおいて、「こうやろう」と思って身体を動かしてみても、なかなかそのイメージ通りにできるものではない。いやむしろ、できないことのほうが圧倒的に多い。もしも簡単にそんなことができたら、例えばゴルフなら、すべてナイス・ショットだ。しかしプロの選手でさえ、そんなことは有り得ない。
 だからイメージどおりに身体が動くように、現実との段差を埋めるのが「練習」なのだが、持って生まれた、素質やセンスが高ければ高いほど、当然その差は埋まりやすい。(まあもちろん、レベルが高くなればなるほど、理想との小さな段差が、埋まらなくなってはゆくのだが)
 自分の身体を動かすのさえイメージどおりにはいかないのに、「自転車」という(身体以外の)機材を介してそれをやるのは、いっそう難しい。自転車と一体になって、ひとつの動きを完成させるためには、前後左右のバランスはもちろんのこと、ブレーキ、ギア、ぺダリング・・・それらを瞬時に、自転車という機材を介して、地球に、あるいは空中に、伝えなければならない。それも、ほとんど無意識に。
 前置きが長くなったが、Yosの見るところ、自転車に乗るということにおいては、Mackeyが、その差を埋めることに、いちばん恵まれているのだ。だからきょうのレースでも、Mackeyを見ていると、「あの天性のセンスを持ってして、もっと自転車の練習をすれば・・・これは巧く、そして速くなるな」と、感心しつつ、少し残念にも思う。
 進学に向けて、いまMackeyは、勉強に力を入れている。学習塾の夏期講習とバッティングしたため、先週のMTBサマーキャンプには参加していない。

 きちんと、勉強する。これは大切なことで、MOMOではこのことも大切にしています。勉強を放ったらかして、好きなことばかりやっていては、正しい考えかたや行動ができない大人になってしまいます。(Yosの、まったくの独断と偏見ですが)たとえば、子供のころから学校にも行かずにTVに出て、チヤホヤされた芸能人などがそうですね。むかしS〇〇〇Dっていう小学生がデビューして「Steady(ステディ=恋人)」という歌をうたったときは、「おいおい、小学生はそんなことより、Study(スタディ=勉強)でしょ」と、ちょっと心配になったものです。けれども、ちょっとぐらい勉強を忘れても、芸能界とか、ネットゲームとかとは違って、自転車なら大丈夫です。(まったくの独断と偏見ですよ!くれぐれも)。
 これも余談(よだん=まあ、どうでもいいこと:Yos)ですが、 今のMOMOの子供たちにとって、48といえば、もちろんAKBでもNMBでもなく、フレームサイズです。「ShokaとU太がロード組むなら、フレームサイズは48だよね」という使いかたこそが、正しい。
 Gen、Upapa、YosでMOMOのキャッチコピーを考えたとき、「シュクダイ、スンダ?」にしようかと、本気で話し合いました。そうです、MOMOはまさに、文武両道(ぶんぶりょうどう)。

 おっと、本題に戻んなきゃ。
 Mackey、この子はいつも、動いている。気がつけば周りにある環境やモノを使って、遊び、動いている。横に渡った棒があればぶら下がり、通路では、壁に手足を突っ張って、忍者のように上がる。高くて尖ったものがあれば、気がつくとその上に立っている。そのあとの、Mmamaの「こらー、M(本名)、降りなさい!」という声とセットで。(いやもちろん、ナントカは高いところに・・・ってワケじゃないですよ・笑)
 Mackeyの、それらの動きを見ていると、彼がいかに高い身体能力とバランス感覚を持っているかが、よく分かる。MOMO以外にも、サッカークラブにも籍を置くMackey、Yosはそのプレイは見たことがないが、サッカーもきっと上手いのだろう。
 しかし今は自転車レースだ。全国小中学校マウンテンバイク大会、6年生男子。
 Mackeyの練習不足は否めない。持って生まれた身体能力は、たしかに多くの面をカバーしてくれるが、きょうのように、山を走るクロスカントリーレースにおいては、それよりも圧倒的に、練習量が勝負を決める。
もともと人間の脚は、回転運動をするようにはできていない。その回転運動を続け、クランクを回し続けるということは、いわば「設計外」の動きを続けるということであり、だから自転車は、持って生まれたセンスだけでは、決して速く走ることはできない。自転車で速く走るためには、自転車に乗る練習をするしかないのだ。

 その練習不足の必然が今、Mackeyの足を襲っていた。ガクリとスピードが落ちて、得意のバランスが必要とされるパートでも、踏ん張りがきかない。
 練習不足というより、ほとんどぶっつけ本番なのは、Mackey自身も周囲も分っているから、今回は順位には、あまりこだわっていない。それでも、この前までは自分より遅かったD地が前を行っているのだから、頑張らないわけにはいかない。自分も、このあと3年生のレースを走る妹のKNも、チームMOMOの一員なのだ。勉強だって、レースだって、頑張るときは、精一杯頑張る。
きょうのレース、「ベストを尽くす」というのが、総監督genからの至上命令だった。(しじょうめいれい=ぜったい、こうしなさい、という命令:gen)

 いつもの明るい笑顔は、今は少しだけ横に置いておこう。Mackeyの顔に、真剣な表情が漲る(みなぎる=あふれ出るばかりに満ちる:岩波国語辞典)。
 ゴールを目指して、Mackeyが、ベストを尽くす。
posted by Yos at 14:22 | 東京 ☁ | Comment(0) | MOMOがゆく | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年10月14日

「MOMOがゆく」番外編 「その前をゆくK」

「MOMOがゆく」番外編・「その前をゆくK」

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 ガン、ガン!という、音程の下がる独特の変速音を聞いて、Yosは耳を疑った。
「まさか、ここで、シフトアップだと?!それも2速」
 慌ててその音の出どころを探すと、今まさにチームKのAokiが、シングルトラック進入の坂を上っているところだった。それも、思わず見とれてしまうような加速を見せながら。「あそこを、ギアを上げながら、加速してゆくのか!」
 セオリー(theory:理論・常識)という言葉は、ネセサティ(Necessity:必然性)の前に、ときに脆くも崩れ去る。なぜAokiが、ここでシフトアップするのか。それは、「そのほうが、速い」という、彼にとっての「必然」だったからだ。しかしもちろん、そんな乗りかたができるのは、Aokiの卓越したライディング・テクニックがあってこそ、だった。 MOMO単独の練習においては、そこはクルクルと足を回すパートであり、誰もそこでは、踏まない、いや、踏めない。そしてその乗りかたこそがまさに「セオリー」だった。隣に立ってAokiのアタックを見ているU太に「おい、あそこで、シフトアップだぞ(できるか?)」と聞くが、返事がない。U太は食い入るように、Aokiの走り方を見つめている。そう、これこそが、きょうの合同練習の意義であり、成果であり、(いま風に言えば)「シナジー(相乗効果)」なのだった。

 きょうは、KとMOMOの、初めての合同練習だった。レースやMTBサマーキャンプでの子供たちの交流から生まれ、実現したコラボレーション。そして今、MOMOのホームゲレンデに設(しつらえ)えられたシングルトラックで、タイムアタックが始まったのだった。
 ぜんいんが数回のアタックを終えて、コースレコードはAokiの31秒。2秒遅れてU太とRタン、女の子ではShoka、Hちゃんが、40秒そこそこでそれに続く。(ちなみに、Yosは60秒でした (TヘT))
 すてきな素敵な合同練習を終えて、稲城の公園で解散。そのときN島パパが平然と、「じゃあKは、あと25kmね」と言う。「え! ここまで自走ですか?」と問うYosに、「ハイそうです」と笑顔で答えるN島パパとAokiパパ。(Yosはきょうの午前中、U太と二人でSINのハイペース走行会に参加。午後から合流のため、Kが自走で稲城まで来たとは、まったく知らなかった)
 ここまで自走で来るって、そりゃ、Kは強いわ、と半ばあきれつつ、Yosはあらためて思う。

 バブル経済の崩壊後、「失われた10年」と言われる不幸な時代に育った子供たちは「無気力、無感動」だと嘆かれる。リアルな経験に乏しく、アニメやロールプレイングの世界に終始するのだという。それは悲しいかな、しかたのない現実かもしれない。
 けれども日本には、その世代のあとに、この子たちがいる。コケても、しんどくても、涙を流しながらでも、ペダルを踏んで、前に行こうとする、この子たちがいてくれる。
 今、自分の前をゆく、Aoki、Ayumi、U太、Shuya、D地、Rタン、Shoka、(バレリーナの)Makoちゃん、Hiちゃん、KK、JJ、そしてKNちゃん、その小さな12の背中を見ながら、Yosは思う。(わおっ!12の背中って、これはまさに感動の名作「24の瞳」じゃないか!って…もちろんきょうは、『瞳』は1人だけなのだけど)
「大丈夫だ。この子たちがいてくれる限り、日本の未来は、大丈夫だ!」
 KとMOMOの子供たちよ、力のかぎり、羽ばたいてゆけ!困難なことがあっても、前に向かってゆく強い気持ちと、この素敵な仲間たちがいれば、君たちには、ぜったいに、何も怖いものはないぞ!いや、怒ったときのお母さんとかは、もちろん怖いけどね。(そうそう、あと、俺たちの年金のことも、ヨロシクねー!・笑)

 天気にも恵まれた、きょうの合同練習が終わった。Yosは名残惜しくも心地よい疲労感(Shuzoさん、この『子守?』はハードですよね!笑)とともに、帰路につく子供たちを見送った。

PS:Makoちゃん、Hiちゃん、きょうは、Yosに階段の上りかたを教えてくれて、ありがとね!おかげでYosは生まれて初めて、3段の階段を自転車で上れました。
posted by Yos at 21:49 | 東京 ☁ | Comment(3) | MOMOがゆく | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年10月03日

「MOMOがゆく」 第6章 KK 渾身のKK つよいきもち

お待たせしましたKK!
そしてみなさま、言わずとしれた双子のもうひとりの方、KKの巻です。
「渾身(こんしん)」= 全身、からだぜんたい − の力

第6章 KK 渾身(こんしん)のKK つよいきもち

KKゴール前.jpg

「私は、ほんとうは、この坂は足をつかずに上れるのに」 渋滞がはじまった最初の激坂で、KKはくちびるをかみしめた。
 男女混走で、最多の40人が出走したこのクラスで、最初の激坂の頂上から大きく落ちるドロップは、横に広がった選手たちが、じょうご(せんざいとかを、ボトルに入れるときに使うやつ)の口のように、一気に絞り込まれる、いわば最初の難関だった。頂上からの降下ラインは1本だけ、そして、そこはまるで電車の自動改札のように、たった一人しか通れない。だからどうしても、渋滞が発生してしまう。今、KKはその渋滞に巻き込まれて、無念(むねん=くやしいこと)にも足を着いて止まらざるを得なかったのだった。
 くやしくて、くちびるをかみしめながら渋滞の先を見ると、すでにドロップを越えた先頭集団は、みるみるKKたちとの差を広げてゆく。そしてその先頭集団の中には、JJも含まれていた。しかしいくらKKが焦っても、今は自分の順番がくるのを待つしかなかった。
 KKとJJは双子の姉妹だ。二卵性なので、「まったく、うりふたつ(とてもよくにていること)」というほどではないけれど、それでも顔はもちろんのこと、体つきもよく似ていて、遠くから見分けることができるようになるのには、それなりの慣れを要する。いつも参加するa.b.cカップなどではすっかりおなじみで、「来ました!双子の姉妹(しまい)!」というのが、(いつもちょっとエッチなTシャツを着ている)実況のDJのお決まりのフレーズになっているほどだ。
 先週のシマノ(バイカーズ・フェスティバル)の成績は2日ともJJが3位、KKが4位だった。だからきょう、KKは表彰台を、メダルをねらっていた。いつも一緒にトレーニングをする二人は、レース成績もちかいものになる。けれどもどうしても、順位というものは、ついてしまうのだ。それが先週のシマノの、3位と4位だった。これが5位と6位というのなら、さほどの悔しさは感じなかったかもしれない。しかし言うまでもなく、3位と4位とは大きくちがう。それはオリンピックでも子供の自転車レースでも、まったく同じだ。メダルがあるか、ないか。2日連続の4位だったシマノで、KKは悔しかった。だからきょうはどうしても、メダルをとりたい。あるいはJJはパッチン(ビンディング・ペダル)なのにたいして、KKはフラット、その差もあるのかもしれない。けれども今は、そんなことは言ってられない。

 やっと、KKがドロップを越える順番が来た。「よし!追いつこう!いまは渋滞のことを、くよくよ考えているときじゃない!」決意とともに、KKはサドルから腰を上げた。
 ここから、KK渾身(こんしん)の追撃(ついげき)が始まった。そのとき、JJとKKの間には15人ほどの選手が走っていただろうか。KKが追いつくためには、その選手たちを、追い抜いてゆかなければならない。(こんしん=からだぜんたい…をつかって:岩波国語辞典)(ついげき=にげるてきを、うしろからおいかけて、こうげきすること:岩波国語辞典)
 ながい長い上り坂で、他の選手たちがシッティングで上ってゆく横を、KKは一人、二人と抜いてゆく。見ていて惚れ惚れ(ほれぼれ)するような、きれいな、きれいなダンシングで、ずっと上まで、のぼり続ける。(ほれぼれする=ふかく心をひかれて、好ましくてたまらないようす:岩波国語辞典)
 この乗り方は疲れるかもしれない。いやきっと疲れる。けれども、それでもKKはやめない。どんどん、どんどん前に、前にゆく。それは気持ちが強く、前を向いているから。どんなことがあっても、あきらめないから。
 KKは、「気持ち」で走るタイプだ。今のように、気持ちが決まったときには、素晴らしい集中力とパフォーマンスを発揮する。(まあ、決まっちゃったら、頑固でこまるときも、あるのだけどね・笑)この点は、カチカチとロジカルな戦略を立てて走るJJと好対照を成している。だからこの双子は、見ていて面白い。(1人を生むのに比べて)出産と新生児期の育児は、たいへんだったが、その分こうやって、2倍の楽しみを与えてくれることを、SKM47は幸せに思う(たぶん・笑)。(もっとも、何かあるときは心配も、当然2倍になってしまうのだが)

 「私だって、メダルを獲(と)ってやる!」
 まるで、サドルがついているのを忘れたかのようにダンシングを続け、力強く追い上げてゆくKKの背中に、パパとママの「KK、頑張れー!」という絶叫(ぜっきょう=ありったけの声を出してさけぶこと:岩波国語辞典)のような声援は、届いただろうか。
 渾身の力をふりしぼって、KKがゆく。ちからのかぎり、あきらめずにゆく。
posted by Yos at 23:26 | 東京 ☀ | Comment(2) | MOMOがゆく | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年10月01日

「MOMOがゆく」第5章 JJ 本気の女の子

 小学3年生で習う漢字や語彙を考えれば、「よそう」とか「きにする」というのが、きっと順当なのでしょう。
でもやっぱり、「忖度(そんたく)」なんですよね、小説的には、Yos的には。そのほうが、「周りがなんと思っていようが、決めたことに向かって、まっしぐら!」というかんじがします。
ということで、「MOMOがゆく」第5章、JJの巻です。
 KK、明日には第6章、KKのところをアップするからね!なんと言っても、双子ですから、本来は同時じゃなきゃいけません。でも今、推敲(すいこう)しているから、もうちょっと待ってねー。(すいこう=文章をよくしようとして、なんども考え、つくりなおすこと…中国、唐の時代の古事に由来し…って、あとは自分で辞書をひいてね)Yos

第5章 JJ 本気の女の子(小学校3年女子)

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 「私はね、本気で表彰台をねらっているんだから!そのためには、ここでいかなきゃいけない!」
これから走る自分のラインをまっすぐに見ながら、JJは最初の激坂を越えた。ここを何度も試走して選んだギアに入れ、はじめは軽く回しながら、シッティングで坂に入る。途中からはギアをかけて、ダンシング。「ふつうは2速上げるけど、ここは坂が急になるから、1速だけでいい」カチカチカチ…と、JJは頭の中で考える。レースで熱くなっているときでも、クールに作戦(さくせん)を立てるのが、JJの走りかただ。今もそうやって、この坂を速く上るためのライン(もちろん、試走のときから決めているライン)を、ぜったいに外さないために、ここまで全力で踏んできた。「あの坂の上で渋滞(じゅうたい)が起きるから、あそこまでは、ぜったいに先にいかなくちゃダメだよ」と、スタート前にマコトさんが教えてくれたとおりに。
 KKがうしろの渋滞に巻きこまれていないか心配だったが、今は振り返っている余裕(よゆう)はない。24インチのJJのバイクは、今はライバル以上に足を回さないと、置いていかれてしまうのだ。
(マコトさん=MOMOをサポートするスポーツバイクショップ、bike room SIN店主シンスケのワイフ。店主の職人気質とオヤジギャグのため、ともすれば一般の人が入りづらくなってしまうおそれのあるこのショップを、「このお店、いいわー」という、とても入りやすいお店にしている、実は店主よりもすごい存在。その素敵な笑顔と丁寧な接客で、多くのファンを持つ。※これだけ褒めておけば、次にお店に行ったとき、きっと補給食ぐらいプレゼントしてくれるかなー? なんて、いやマコちん、もちろんホンネですよ・笑)

 先週のMTBサマーキャンプで、同じこの坂を上ったとき、JJのバイクを持ち上げたYちゃん先生は、「JJちゃん、こんな重いバイクで、この坂を上っているの?」と驚いていた。「え?」JJにしてみれば、それがあたりまえだったから、今まで、あまり気にしたことはなかったのだが、このとき彼女は、「どうやら自分のバイクは、ふつうより重いらしい」ということ知る。だから、Yosの家の冷蔵庫のドアから持ってきた「カエルの強力磁石」でためしてみた。するとShokaのオルベア(カーボンフレーム)とKKのGT(アルミフレーム)にはひっつかずにポロっと落ちたカエルが、JJのスペシャライズドにだけに「カン!」とひっついたときには、思わずパパ(総監督gen)に、「私にも、鉄じゃない自転車を買って!」と言ってしまったのだった。
 でも実はJJは、このバイクが大好きだ。このスペシャ(レースの時にちょくせつもらった、片山梨絵ちゃんのサインが入っている!)は、太平洋の向こうから海を越えて、JJのところにやってきた。新しい軽いバイクも、もちろん欲しいけれど、それでこのバイクとサヨナラするのは寂しい。(このすてきなお話は、いずれ機会があればまた)
 たしかに、上り坂ではちょっと重いと思うこともある。でもJJはパッチン(ビンディング・ペダル)で引き足を使って上手に足を回せるし、それに下り坂では、このバイクはとても安定している。JJはペダルに立っているだけで、まっすぐ、ぐんぐんと進む。だからライバルたちが足を止めている下りでも、重いギアを踏んで加速することができる。ライバルたちの26インチにくらべて、JJの24インチは不利だと言う人もいるが、シンスケさんが、白のかわいいスポークで、とくべつに「手組み」で作ってくれたこのホイールはよく回り、JJのぺダリングの加速にも、瞬時に応えてくれる。(しゅんじ=またたきをするぐらいの、わずかな時間:岩波国語辞典)

 表彰台は難しいだろうと、大人たちは漠然(ばくぜん)と考えていた。というのも、3年生女子には、IKちゃんと、「ひーちゃん」ことHちゃんという、2人のいわば「当選確実(とうせんかくじつ)」がいるからだ。
(ばくぜん:ぼんやりと、はっきりしないこと:岩波国語辞典)(とうせんかくじつ=まあ、ぜったいまちがいない、ということ:Yos)
 15人が出走する、女子一番の激戦区(げきせんく)で、表彰台に残された「あと1人」に、JJが割って入るのは難しいというのが、大人たちの見立てだった。もちろん、みんながJJの表彰台を、心から望んではいたのだけれど。(げきせん:ぜんりょくをつくす、はげしいたたかい:岩波国語辞典)(みたて=お医者さんが、「これはたぶん、かぜですね」というように、たぶん〇〇ということ:Yos)

 しかしここに、そんな大人の勝手な見立てなど、まったく忖度しない女の子がいた。(そんたくしない=「なに言ってんのよ?あたし、そんなこと、どーでもいいわよ(SKM47さんなんかが、よくおっしゃいますね)」ということ:Yos。そんたく=すいさつ、おしはかること:広辞苑)
 「シマノ(バイカーズフェスティバル)で2日とも乗ったのに(2日とも3位)、きょう、乗れないはずはない。私はぜったいに、表彰台に乗るんだから!(表彰台の)試乗だって、したんだから!」(前日の試走のあと、たしかに乗ってました・笑)そう、JJにしてみれば、「そんなの、あたりまえ」のことだったのだ。
 集中したJJには、いま自分が走るラインが、白い光の線のように、はっきりと見える。その光に向かって、JJが、海のむこうからやってきた鉄のバイクを、ぐんぐん加速させる。「おおーっ!」という、勝手な大人たちの、驚きのどよめきを、背後に残して。(はいご=うしろ、せなかのほう)
posted by Yos at 23:24 | 東京 ☁ | Comment(5) | MOMOがゆく | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年09月19日

「MOMOがゆく」第4章 D地 小さかったら、たくさん回せ

いきますよー!「MOMOがゆく」第4章です。

今回からは、小学生にも読み易いように、彼らには難しいと思われる漢字や言葉には、解説を入れるようにしてみました。もっと易しい表現で書くことも、できるかとも思いますが、みんなには、読むことや、新しい言葉を知る楽しみを知ってほしい。(なんて教育的な配慮なのかしら!)
まあ、かと言って、小学3年生が、「私、ちょっと躊躇したけど、清水の舞台から飛び降りるつもりで、決心したのよ、客観的に考えてみて」なーんて、言わないとは思いますが。(詳しくは本文を・笑)
けれども、依然として小学生には、ぜんぶ読むのは難しいでしょうから、ルビや細かい解説は、パパとママ、よろしくお願いします。Yos

第4章 D地 小さかったら、たくさん回せ(小学校6年男子)

D地1.jpg

 パチリ、と、D地は目が覚めた。8月4日、全国小中学生MTB大会の朝だ。
 クンクンと鼻をうごかすと、パンを焼くいい匂いがする。D地は勢いよく布団を跳ね上げて、キッチンへと走る。朝食の匂いがしているということは、Yosはきっと、キッチンにいるはずだ。
 キッチンに行くと、Yosは窓に面した流しの前で、サラダに入れるトマトを切っていた。「やっぱりいた」料理の好きなYosが、この時間にいる場所は、キッチンに違いなかった。横から覗き込んで見ると、切られたトマトの幅は、どれも、きっちり同じだ。それを丁寧に斜めに揃えて、レタスの上に重ねてゆく。Yosさんは、料理の見た目にも、いつも気を配る。「このほうが、美味(うま)そうだろ」と、笑って言う。

「おはようございます、Yosさん。ペダルを、ビンディングに換えてください!」
D地の、この一風かわった朝の挨拶を聞いたYosは、ちょっと顔を上げると、前を向いたまま、黙って包丁を置いた。手を洗い、タオルで拭く。そして、ようやくD地のほうを見た。「あ、」D地は、このYosの顔をよく知っていた。「これは、Yosさんの、機嫌(きげん)がいいときの顔だ」

「ガレージに来い、D地。今すぐ、換えてやる」 そう言いながら、YosはD地の頭を、ガシガシと荒っぽくなでた。
 昨日の試走のとき、D地は途方(とほう)に暮れた。前日に降った豪雨の影響で、粘土質のシングルトラックの路面は、ヌルヌルにぬかるんでいた。ただでさえ滑りやすい上に、くねくねと蛇行(だこう)するバンクやドロップを、ブロックに泥が詰まって、グリップを失ったタイヤで走るのは至難の業(しなんのわざ=とてもむずかしいこと)で、D地は何度も足を着き、そして落車した。急にバランスを崩すと、ペダルからシューズを外すのが、間に合わないのだ。
 先週のMTBサマーキャンプでは、ビンディングペダルが禁止だったから、1週間のあいだ、D地は久しぶりにフラットペダルで走った。サマーキャンプでも雨の日があり、ぬかるんでスリッピーなコースを走ったが、フラットペダルなら、すぐに足を着くことができたので、ほとんど落車することはなかった。だから昨日、試走を終えて、ターフを張ったピットに戻ったとき、Yosに、フラットペダルに換えてほしいと、頼んだのだった。

 D地の頼みを聞いたYosは、genの顔を見てたずねた。
「genちゃん、D地はこう言ってるけど、どうする」
「本人がそう言ってるんなら、恐怖感でガチガチになって走るよりは、そのほうがエエんちゃうの」
「わかった。総監督が許可するのなら、そうしよう」
そして、ペダルレンチを手に取り、交換作業を進めながら、Yosは独り言のように言った。
「D地、確かに、あの泥のシングルトラックは怖い。昨日、試走して、俺でさえ、あそこはフラットペダルの方が、走りやすいだろうと思ったよ。でもな、このコースは1周3.5kmで、それを2周。そして、シングルトラックは、そのごく一部。あそこはだけは、フラットの方が安心かもしれない。でも、スタート、オーバルコース、そしてあの長い上りも、フラットで走るんだぞ。それでいいのか」
「・・・・」
 D地はそのとき、Yosの問いに答えることができなかった。確かに、Yosの言うとおりなのは分かっている。でもやはり、あそこは怖い。もちろん落車そのものも怖いが、サマーキャンプの成果で、自分のライディングが上達したのを感じていたD地は、落車によってライバルに先に行かれることのほうが、それよりも、もっと怖かった。
 ママに、上達の成果を見せたい。そのためも、いい順位でゴールしたい。もしもあそこでコケたら、押して走ることを余儀なくされ、おそらくシングルトラックを出るまでは、バイクに跨(また)がれないだろう。そのとき、バイクを押す自分の横を、ライバルたちが走り抜けてゆくシーンを想像すると、D地はどうしても、躊躇(ちゅうちょ=決心がつかず、ぐずぐずすること。ためらうこと:広辞苑)してしまうのだった。

「まあいい。そのかわり、ぜったいに、後で、『やっぱりビンディングにしとけばよかった』 なんて言うなよ。そんなカッコ悪い言い訳は、俺は大嫌いだからな」
 いつもは声が大きく、多弁なYosが、相変わらず独り言のように小声で言いながら、ペダルを交換しているときの顔が、少しさみしそうだったのを、あるいは少し怒っているようだったのを、D地はおぼえていた。そして、答えることができない自分が、気がつけば、唇(くちびる)を噛みしめていたことも。
だから今朝、Yosがあの、『機嫌がいいときの顔』で、頭をガシガシやってくれたときは、とても嬉しかった。

 そして今、D地は、最初の激坂、逆バンクのドロップと難所を越えて、長い上りに差しかかっていた。
「やっぱり、ビンディングだ!フラットだと、こんなに軽くは上れない!」

 MOMOの小学6年には、U太とShokaという、男女のエースがいる。D地は、その二人より遅い。これは客観的(きゃっかんてき)な事実だ。ダンスチームに参加し、その練習のために、自転車に乗る時間は、U太とShokaに比べると、どうしても少ない。週末にダンスのイベントが入ることもあり、出場するレースの数も、二人より少なくなる。体型的にも小柄で、小学校6年生で、すでに160p近い身長がある二人を、うらやましく思ってしまうこともある。
 体重の軽いD地は、ライバルたちと体をぶつけあうこともあるスタートでは、弾き飛ばされて落車し、悔し涙を流すこともある。きょうも、大柄な選手たちに行く手を阻(はば)まれて、スタートでは思うように前に行けなかった。
 けれども今、この長い坂を上りながら、D地は、自分よりも体の大きなライバルたちを、ひとり、また一人と、追い越してゆく。大柄なライバルたちが苦しそうに、あえぎながら坂を上る横をパスしながら、D地は思った。
「そうだ!体重の軽い僕は、上りでは有利なんだ!」
 きょうの僕の目標は、『全参加選手の中で、半分より上でゴールすること』 U太とShokaちゃんは、確かに速い。でも、僕には僕の、走り方がある。
 「体が小さかったら、その分、たくさん回すんだ! そして、これからいっぱい練習して、練習して、いつかきっと、上り坂で二人(U太とShoka)を、追い抜いてやる!」

 これから、あの泥のシングルトラックに向かって、ビンディングペダルで挑む。
「Yosさん、僕はぜったい、言い訳はしないよ!コケたって、泥だらけになったって、あそこを越えてみせる!」
 歯をくいしばって、D地がゆく。勇気を持って、向かってゆく。
 ママが、清水の舞台から飛び降りる(清水のぶたいからとびおりる=非常な決意をして物事をするときの気持ち:広辞苑)思いで買ってくれた、カーボンフレームに組まれたXTのクランクを、ライバルよりも、たくさん、たくさん、回しながら。
posted by Yos at 20:56 | 東京 ☀ | Comment(15) | MOMOがゆく | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年09月18日

「MOMOがゆく」 第3章 くまベルはお留守番

「MOMOがゆく」ファン(いるのか、そんな人?!)の皆様、ご愛読ありがとうございます。

きょうは第3章をアップします。
物語はこれから、チームMOMOのみんんが、どんどん登場して、それぞれの熱いレースを展開してゆきますので、乞うご期待。
Yos

第3章 Shoka くまベルはお留守番(小学6年生女子)

「あれ、なんだか静かだな」とShokaは思った。

スタートのときの声援はすごかった。あれは今までのレースで一番大きかった。
しかし、今まで経験をしたことのないような大声援の中でも、Shokaはしっかり集中していた。
スタートでは、パパ(MOMO総監督gen)の指示どおり、「U太はぜったいコケない」と信じて、その後ろにぴたりとついて、全力で踏んだ。そしてやっぱり、U太は「ぜったい」だった。

6年スタート.jpg
男子と女子が混走するレース。スタートは、チームメイトのU太に、ぴたりとついていく

ありがとね!U太!私はもう大丈夫だから、先に行っていいよ!

いちばんの不安だった、ぬかるんだシングルトラックを、順位を落とすことなく、うまく抜けることができた。今朝の試走のときに、シンスケさん(MOMOをサポートするバイクショップ、bike room SIN店主)が、「シングルトラックまでに競り合いに決着をつけて、シングルに入ったらコケないように、慎重に」と教えてくれたとおりに。

オーバルコースから見える観戦ポイントの上り区間で、Shokaのすぐ前を、昨年の覇者が走っていた。
この大会でも連覇を重ねてきた彼女は、小学生MTBレースにおける『絶対女王』とでもいうべき存在だ。
Shokaは彼女のことを、大きな目標にして、この一年間トレーニングを積んできた。

言うなれば、彼女の存在こそが、Shokaをここまで引き上げてくれたのだ。Shokaだけでなく、MTBレースを戦う女子選手みんなにとって、彼女は大きな目標だ。
だが、きょうの彼女は、数週間前に負った骨折負傷と、それによる練習不足のため、決して万全のコンディションではない。気力で走っているのが、傍目にも分かる。だから彼女にも是非頑張ってほしい。ライバルとはいえ、惜しみない声援を送ろう。

Shokaは迷った。「後ろについて体力を温存し、チャンスを待つか、それとも前に出て、自分の走りをするか」
一瞬の迷いの後、Shokaはギアを2つ上げ、ダンシングに切り替える。

パパと、この大会を目標にして、1年間頑張ってきた。
そして「きょうはその成果を、全力を出そう」と決めていた。
だから、あとで後悔をするような走りはしたくない。
全力でぶつかって、負けたら、それが今の私の実力なんだ。

左から彼女をパスしてゆく。
上りのダンシングは、踏みすぎに注意しなければならない。パワーのかけすぎで後輪が一瞬でも滑ったら、一巻の終わりだ。失速し、最悪の場合はバイクが横を向いて落車する。
よし、上手くいった。
さらに後輪のトラクションに意識を集中しながらギアをかけ、加速しながら坂の頂点を越えた。 「坂のてっぺんで失速しない、パパと何回も練習したとおり」そして、スピードの出る長い下りを走っているときだった。

それにしても、「どうしてこんなに静かなんだろう。それに、スピードが出ているはずなのに、前を走る男子選手たちの動きが、とてもゆっくりに見える」と、Shokaは不思議に思う。

ああ、いつもサドルの下で鳴っているベルの音がしないから、静かなんだ。試走のあと、Yosが、「この音はShokaがどこにいるかを、ライバルに教えてしまう」って、外しちゃったのった。
でもあのベルは、山では熊から、街ではクマより恐い暴走ママチャリのオバサンから、私を守ってくれていたし、「カンカラカンカラ、頑張ろう!」っ応援してくれている気がするから、ないとちょっと寂しい。
クーラーボックスのハンドルでお留守番させちゃってごめんね。でもこれは、『せんりゃく』だから。レースが終わったら、すぐにまたつけるからね。ちょっと待っていてね!

さあ2週目。思ったより疲れていない。
あ、パパだ。近くにUpapaとYosもいて、3人とも、なんだか心配そうな顔をしている。そしてパパのあの顔は、私に何か言いたいときの顔。

それもそのはず、このときgenは、予想よりはるかに速いペースで(それも、男子の先頭集団に混じって!)オーバルコースに戻ってきたShokaを見て、「あれで最後まで持つのか」と、不安になっていた。何か言いたそうなその顔は、「ペースを落とせ」と、喉まで出かかっていた顔だったのだ。

しかしShokaにしてみれば、先週のMTBサマーキャンプの6日間のうち、4日はここを走りこんだのだから、このコースを2周するということを、そして、それがどれだけの体力を必要とするかということを、よく分かっているつもりだった。

だから、オーバルのストレートでさらにスピードを上げ、前をゆく男子選手に迫ったとき、心配顔から、こんどは「げっ!」というような驚き顔に変わったパパたち3人を見て、「どうしてあんな顔するのかなあ」と、Shokaは首をひねる。

Shokaの「全力」の2週目が始まる。もう前には、男子選手しかいない。

Shokaストレート.jpg
レースは最終周回。Shokaの、全力のアタックがはじまった
posted by Yos at 00:05 | Comment(1) | MOMOがゆく | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年09月15日

「MOMOがゆく」 第2章 KN、笑顔のチカラ

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いつも笑顔のKN、レース会場に行く道で「ダンシング」を練習する

第2章 KN、笑顔のチカラ
(小学校3年女子)

「のぼりで1、くだりで2…、きょうは、3(アウター)は使わない…」時々、口に出して言いながら、KNはフロントギアを操作して走る。
 
こんなきついコースは、もちろん今まで走ったことがない。
昨日の試走で初めて走ったときには、「こんなすごいところ、私は走れるんだろうか」と不安で体がこわばった。
オーバルコースを出て、トレイルに入ったとたんに、壁のような激坂(げきさか=すごい坂のこと)があり、その直後に、崖から落ちるような、逆バンク(ふつうはイン側が低く、アウト側が高くなっているのが、逆になっている、危ないカーブ)のドロップ(高低差)がある。

そしてそのドロップを下りてほっとするのもつかの間。続く上りは、果てしなく長い。
KNはいつもそこを上りきれず、途中でバイクを降りて押して上った。けれども、それも今朝の試走までのこと。

今、KNはバイクを降りずに、しっかりとサドルに乗って、このながい長い坂を上っていた。
時々、ダンス…えーと、なんだっけ?も使う。自走で会場に向かうとき、姫川に沿う道で、Yosが教えてくれた。

「KNちゃん、立って乗るときは、ギアを重くして、そうそう。それを、『ダンシング』というんだ。まるで、自転車の上で、踊っているみたいだからね」

今朝、パパとYosと一緒に走った試走のおかげで、昨日は走れなかったところが、走れるようになった。
怖い逆バンクのドロップは、お尻をめいいっぱい後ろに引いて乗ると、走れるようになった。
昨日は足を着いていた上りも、ギアを「1」にしてクルクル回すと、上れるようになった。だから楽しい。ニコニコしてきちゃう!

1週目を終えてオーバルに戻ってきたKNを見て、「それにしても、この子の笑顔は、まわりのみんなを幸せにする」と、Yosは思った。

練習量が少ないKNにとって、このコースはそうとう苦しいはずだ。それなのに、どうしてあんな笑顔で走れるのだろう。ひょっとして、あれは地顔か(苦笑)、とも思う。
そういえば、Yosは今まで、KNが怒っている顔というのを見たことがない。いつも、笑っている。
もちろん、落車して泣くのは何度か見たことがある。しかしどう思い返しても、彼女の怒った顔というのを、思い出せないのだ。

自転車レースに限らず、競技というものは、技量はもちろんがだ、精神面での「闘争心」が少なからず勝敗を左右する。それが彼女には、ないのだろうか。
けれども、ないなら無いで、いいじゃないか、とYosは思う。この殺伐とした世の中には、そういう優しい心が必要だ(この想像は、後に驚きに変わるのだが)。

それに彼女は、まだ9歳なのだ。どうせ地顔にするなら、怒った顔よりも、笑顔のほうがいい。
ああ、そういえば彼女の兄のMackeyも、あまり闘争心を感じさせるタイプじゃないな。
きっと、おおらかで優しい心を持って、育てられたのだろう。だから、この兄妹は二人とも優しい。

皆がみんな競争ばかりしていては、世の中はガサガサした、優しさのない世界になってしまうだろう。
それに、子供の笑顔以上に人を幸せな気持ちにさせるものなど、この世界にあるのだろうか。
KNの笑顔は、まさにそんな、幸せな笑顔だ。
 
さあ2週目、「KNがんばれー!」というママ(Mmama)の声援を聞いて、KNはペダルに立ち上がり、自転車の上でダンスを踊る。
そしてもちろん、その顔はいつものように、素敵に笑っている。
posted by Yos at 15:21 | Comment(2) | MOMOがゆく | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年09月10日

「MOMOがゆく」第1章 連載開始のお知らせ

こんにちは。Team MOMOの応援団長ことYosです。ちなみに合宿やキャンプのときには料理長も務めます。
実はワタクシ、ヘタクソですが文章を書くのが好きです。小説家とか、エッセイストとか、あこがれるなあ。

そこで、このブログのひとつのカテゴリで「連載」を開始しちゃいます。
Team MOMOの活動やレースのことを、小説風に書くのです。

タイトルは「MOMOがゆく」(司馬遼太郎の「龍馬がゆく」が大好きなのでね)。
ブログの「カテゴリ」から、「MOMOがゆく」をチェックしてください。 

始めにお断りしておきますが、これは「現実に基づいたフィクション」です。
ですから物語の展開や、子供(ときどき大人)たちの心の描写には、若干の…いや、ときにはけっこうな(笑)脚色や、僕の「こうあってほしい」という、私のヒロイズムなどもあったりします。そのことをご了承のうえ、楽しく読んでいただければ幸いです。
なお内容の責任は、全て私、Yosにあります。

 では、第1章、2013年8月4日、長野県の白馬スノーハープ(長野五輪のとき、クロスカントリー・スキーで日本チームが金メダルを獲ったレースコース)で開催された、「全国小中学校マウンテンバイク大会」のスタートから、この物語は始まります。ぱちぱちぱち!

「MOMOがゆく」
第1章 U太の決意(小学校6年男子)

突き上げてくる左手の痛みに耐えながら、U太は走る。

スタートは上手くいった。
そして後ろにShokaが、ぴたりとついてきているのが分かる。U太がそれを、後ろを振り返らなくても分かるのは、なんというか、「いつもの感じ」だった。
だって僕たちは、3歳の、保育園(もも保育園、チーム名であるMOMOの由来)のときから追いかけっこをしていたのだから。
もっともその頃は、背が高くて足が速いShokaちゃんを、いつも僕が後ろから追いかけていたのだけどね。

 U太1コーナー.jpg
左手の痛みに耐えながらの、全力スタート

総監督(genことShokaパパ)と僕のパパ(Upapa)からの指示は、「スタートから全力!そしてU太の後ろに、ぴったりShokaがついていく」というものだった。

だからここでU太は、ぜったいにコケることができない。自分のスタート以外にも、U太にはもう一つの役目が課せられているからだ。
それは後列からスタートするShokaを、前列からスタートする、前年度に女子で優勝した選手の近くに連れていくことだった。このレースは、男女混走だ。小学校6年生の男の子と女の子が、一緒に走る。

だから今はU太は今、絶対にミスはできない。自分が止まったり、落車などすれば、すぐ後ろを走るShokaをも巻き込んでしまうからだ。
最初のコーナーに向かうベストラインを奪い合い、ライバルたちと激しくもみ合いながら、全力でダンシングをする負担は、容赦なく、電流のような鋭い痛みとなって、U太の左手に響いてくる。

1週間前のレース、「シマノ・バイカーズフェスティバル」で3位に入った翌日、2日連続のレースが終わって遊んでいたとき、U太は舗装路の上でハデに落車した。気がついたら地面に転がっていたから、どうして落車したのかさっぱり分からなかったが、左手首がズキズキと痛み、脇腹の裂傷からは、激しく出血していた。
落車のあと、パパに「大切なレースを控えているのに、何やってるんだ!もう帰るぞ!」と叱られたときは、「ああ、僕はもうこれで、楽しみにしていたMTBサマーキャンプも、全国大会にも出られないのか」と思ったものだ。
しかし、そのときU太は「大丈夫、普通に走れる」とパパを説得して、サマーキャンプに参加し、きょう、全国大会のスタートを切ったのだった。

「大丈夫」と言ったのは実は嘘で、これまでにも骨折の経験があるU太は、落車の直後に「あっ、これは折れたな」と、確信していた。しかし、その本当の痛みを伝えると、間違いなく病院に連れて行かれたはずだ。
そして「骨折」の診断が出ると、サマーキャンプはもちろん、きょう出走することもできなかっただろう。
この1年間、最大の目標にしてきた全国大会を欠場することなど、U太にはどうしても納得できなかった。

サマーキャンプでは、マシュン先生(プロMTBライダー・松本 駿さん)をはじめとする先生たちが毎日テーピングをしてくれて、なんとか痛みをやりすごした。もちろん、そのためにハードな練習をできなかったことに悔いは残る。
でも、そんなことをレース結果の言い訳にするつもりはU太にはない。
すべては、自分が招いたことだから。

だからきょう、U太は決意していた。「ぜったいに、パパと一緒に目標と定めた、5位以内に入る!」と。

パパ、本当にごめんね。この1年間、自分の好きなオートバイのレースよりも、僕のMTBのことを優先して、毎週一緒に走ってくれた(しんどいのにね)。
フレーム組みで、新しい素敵なオルベアも買ってくれた。いっしょうけんめい、ネットや本も研究して、どうやったら速くなるのかを考えてくれた。それなのに、いちばん大事な本番の前に、こんなケガをしちゃって。でも、パパとふたりで、「きょう、出走しよう」と決めたのだから、僕は全力で走る!

ようやく先頭集団が落ち着き、今は前方に前に前年度の男子優勝者と、去年のサマーキャンプ以来の友達であり、良きライバルのA君たち数人の背中が見える。

Shokaちゃんが目標にしている女子選手は、僕とShokaちゃんの間に入ったようだ。さあ、Shokaちゃん、いくぞ!これから、もっと前に行くんだ!

決意とともに、U太はさらに強く、ペダルを踏み込んだ。

U太上り.jpg
「さあ、もっと前にいくぞ!」決意とともに、ペダルを踏み込む
posted by Yos at 22:05 | Comment(5) | MOMOがゆく | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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